大型車の車輪脱落事故は、令和6年度に120件発生しています。令和5年度の142件から22件減っているため、数字だけを見れば「減少した」と言えます。
しかし、運送会社の安全管理では「減ったから安心」とは判断できません。令和6年度も人身事故を伴う事故が3件発生しており、過去10年で見ても120件はまだ高い水準です。さらに、発生時期・作業後の期間・脱落箇所には、現場管理に直結する偏りがあります。
- 令和6年度の大型車の車輪脱落事故は120件。令和5年度142件から22件減少
- 12月から2月に67件、全体の約56%が発生
- タイヤ脱着作業後1か月以内が54件、全体の約45%
- 脱落箇所は左後輪が約92%で、重点確認が必要
- 見るべき本質は「件数」ではなく、点検表・増し締め・点呼に落ちているか
大型車の車輪脱落事故は減っているのか
国土交通省の令和6年度資料では、大型車の車輪脱落事故は120件でした。前年度の令和5年度は142件だったため、22件減少しています。
| 年度 | 発生件数 | 人身事故 | 現場での見方 |
|---|---|---|---|
| 令和5年度 | 142件 | 2件 | 過去10年で最も多い水準 |
| 令和6年度 | 120件 | 3件 | 前年より減少。ただし高水準 |
ここで大切なのは、前年より減ったかどうかだけで評価しないことです。公表されている件数は、報告・集計された事故に基づくものです。実際は、点検時に見つかった異常、走行中の違和感、増し締め時に確認された緩みなど、事故に至る前のヒヤリハットは公表件数に含まれません。
また、事故が起きても人的被害や大きな物損がなければ、報告や記録が十分に残らないケースも考えられます。だからこそ、公表件数だけを見て「減ったから大丈夫」と判断するのではなく、自社の点検記録・増し締め記録・異常報告の仕組みまで見直す必要があります。
何より重要なのは、大型車の車輪脱落が起これば、被害は甚大になる確率が高いという点です。歩行者、後続車、対向車、道路作業者などを巻き込めば、1件でも重大事故になります。公表件数が減ったとしても、自社で事故が起これば会社の安全管理、荷主対応、行政対応、乗務員教育に大きな影響が出ます。
国土交通省の対策で求められていること
国土交通省は、大型車の車輪脱落事故防止対策として、タイヤ脱着作業の記録、日常点検、増し締め後の緩み確認を重視しています。次の内容が自社の運用に入っているかを確認してください。
| 国交省対策の要点 | 自社で確認すること | 現場で起きやすい抜け |
|---|---|---|
| タイヤ脱着作業管理表に沿って作業し、結果を記録する | 作業者、作業日、作業内容、締付確認が残っているか | 外注作業や繁忙期の交換で記録が口頭確認だけになる |
| 作業管理表をもとに、適正な脱着作業が行われたか確認する | 整備管理者または確認者が、作業後に記録を見ているか | 交換した事実だけ残り、締付・清掃・給脂の確認が抜ける |
| 増し締めの実施結果を記録する | 予定日、実施日、実施者、未実施時の理由が残っているか | 予定はあるが、実施確認が未記入のままになる |
| 日常点検表で「ホイールナットの取付状態」を確実に点検する | 出庫前点検で、全輪と左後輪重点確認が記録されているか | 「異常なし」だけで、何を見たかが分からない |
| 増し締め後、点検ハンマ・インジケーターなどで緩みを確認する | 増し締め後の緩み確認方法が決まっているか | 増し締め後の確認手段が人によって違う |
この5点が点検表や作業管理表に入っていない場合、記事を読んだだけで対策したことにはなりません。特に、増し締めと日常点検は「しっかりとした記録と誰が行っても同じ点検になる方法」にしておくことが重要です。
運送会社が見るべき3つの偏り
車輪脱落事故の発生状況は、ただ全体件数を見るだけでは不十分です。運送会社で実際に管理すべきなのは、次の3つの偏りです。
1. 12月から2月が大半の67件、約56%
令和6年度の120件のうち、12月から2月に67件が発生しています。割合では約56%です。冬用タイヤへの交換、積雪地域での走行、繁忙期の作業集中が重なる時期は、特に注意が必要となります。
10月以降に冬タイヤ交換が始まる会社では、交換作業そのものだけでなく、交換後の増し締め計画、実施確認、点呼時の声かけまでをセットで管理する必要があります。
2. タイヤ脱着作業後1か月以内に54件、約45%
令和6年度は、タイヤ脱着作業後1か月以内の事故が54件、全体の約45%でした。つまり「交換した日」だけを管理しても足りません。
交換後に見るべきは、次の3点です。
- 交換作業日と作業者が記録されているか
- 増し締め予定日と実施日が記録されているか
- 運行前点検で、ナットに緩みがないかを点検記録しているか
3. 左後輪からの脱落が約92%
令和6年度の資料では、車輪脱落箇所の約92%が左後輪です。基本は全輪点検ですが、左後輪は重点確認箇所として扱うべきです。
点検表では「ホイール・ナット及びホイール・ボルトの緩みの点検」という項目だけに捉われず、緩んでいるのではないかと疑いながら点検することで、事故のリスクを減らしやすくなります。
役割別に見るべきポイント
車輪脱落事故対策は、整備担当者だけに任せると抜けが出ます。代表者、整備管理者、運行管理者、ドライバー、タイヤ脱着作業者で見る場所を分けると、点検が続きやすくなります。
| 役割 | 見るべきポイント | 確認頻度 |
|---|---|---|
| 代表者・管理者 | 冬季と交換後1か月を重点管理期間にしているか | 月次、安全会議 |
| 整備管理者 | 作業管理表、規定トルク、増し締め実施、日常点検表の記録 | タイヤ脱着時、増し締め時、月次 |
| 運行管理者 | 点呼で交換後車両・左後輪重点確認を声かけしているか | 出庫前点呼 |
| ドライバー | 出庫前に全輪、特に左後輪の異音・違和感を確認しているか | 毎運行前 |
| タイヤ脱着作業者 | 清掃、給脂、部品状態、規定トルク、作業記録を残しているか | 作業ごと |
現場の点検表に入れるべき項目
運送会社の実務では、ここが一番重要です。事故件数を知るだけで終わらせず、点検表や増し締め管理表を見直せる状態まで落とし込む必要があります。
| 管理項目 | 記録する内容 | 抜けやすいポイント |
|---|---|---|
| タイヤ脱着作業日 | 作業日、車両番号、作業者、作業場所 | 外注作業でも自社側の記録を残す |
| 締付管理 | 規定トルク、使用工具、確認者 | 「締めた」ではなく「規定トルクで確認した」記録にする |
| 増し締め管理 | 予定日、実施日、実施者、未実施時の理由 | 予定だけ作って実施確認が残らないケースを防ぐ |
| 出庫前点検 | 全輪確認、左後輪重点確認、ナット位置の変化 | 「異常なし」だけでなく、何を見たかを明確にする |
| 異常時対応 | 違和感、異音、ナットチェッカーの変形、報告先 | ドライバーが迷わず運行管理者へ止めて報告できる基準を決める |
国土交通省が作成した主な点検項目
主な記録項目
- 登録番号または車番
- 作業実施者名
- 作業実施日
- 整備管理者確認欄
- ハブ面、ディスク・ホイール、ボルト・ナットの清掃
- 亀裂、損傷、摩耗、錆、ねじ部の異常確認
- 潤滑剤・グリースの塗布
- 規定締付けトルク値
- タイヤ脱着後、50~100km走行後の増し締め
- 各作業の実施結果
点呼・朝礼で使える声かけ
点検ルールは、紙に書くだけではドライバーに伝わりません。特に冬季とタイヤ交換後1か月は、点呼や朝礼で短く繰り返せる言葉にしておく必要があります。
- 「タイヤ交換後1か月以内の車両は、左後輪を重点確認してください」
- 「増し締め予定日を過ぎている車両は、出庫前に運行管理者へ確認してください」
- 「異音振動がある、違和感がある、ナットチェッカーが変形している場合は出庫せず報告してください」
- 「外注で交換した車両も、自社の点検表で増し締めと日常点検を確認してください」
このくらい具体的な声かけにすると、ドライバー側も「何を見ればよいか」が明確になります。逆に「脱輪に注意してください」だけでは、確認行動に変わりにくくなります。
よくある管理上の落とし穴
車輪脱落事故の対策では、現場で次のような落とし穴が起きがちです。
「外注したから大丈夫」で終わる
タイヤ専業店や整備事業者に依頼していても、運行する車両を管理するのは自社です。外注作業の記録、増し締め予定、点呼時の確認は、自社側でも追えるようにしておく必要があります。
「増し締め済み」で点検が止まる
増し締めは重要ですが、増し締めをしたら日常点検が不要になるわけではありません。国土交通省の事故車両調査でも、清掃・潤滑・部品状態・点検確認の不備が確認されています。締付、増し締め、日常点検は別々に管理する必要があります。
車載工具で増し締めして、そのまま終わる
やむを得ず車載工具で増し締めを行う場合でも、帰庫時にはトルクレンチを使用して規定トルクで締め付ける運用にしてください。トルクレンチは校正が必要です。工具の状態があいまいなまま「締めた」という記録だけを残すと、管理としては弱くなります。
「左後輪だけ見ればよい」と誤解する
左後輪は重点確認箇所ですが、基本は全輪点検です。左後輪の事故割合が高いからこそ、全輪確認の中で左後輪だけは点検表・声かけ・写真記録などで一段強く見る、という運用が現実的です。
ナットチェッカーの位置づけ
ナットチェッカーは、ホイールナットの緩みを目視で点検する補助具です。装着するだけで車輪脱落事故のリスクがなくなる、というものではありません。
役割は、運行前に属人的で、精度のバラつきやすい打音点検から目視点検へ変更することが可能です。
点検時には「前回と同じ向きか」「ズレていないか」を一目で判断することが可能です。特に、ホイールが裏返っている後輪、複数のドライバーが同じ車両に乗る会社や、冬季に交換後車両が増える会社などでは、点検時間を短縮できさらに点検精度上がります。
- 冬季・タイヤ交換後1か月の重点管理車両で試したい
- 点呼時の確認項目に入れられるか相談したい
- 整備管理者向けの点検表にどう入れるか確認したい
自社内で確認したい10項目
この記事の内容を自社運用に落とすときは、次の10項目を確認してください。すべて埋まっていれば、事故件数を知るだけでなく、現場の点検運用まで一段強くできます。
- 冬季とタイヤ交換後1か月を重点管理期間にしている
- タイヤ脱着作業管理表を使っている
- 増し締め予定日と実施日を分けて記録している
- 運行前点検表に「ホイール・ナット及びホイール・ボルトの緩みの点検」がある
- 左後輪を重点確認する項目がある
- 増し締め後の緩み確認方法が決まっている
- 外注交換車両も自社側で記録を追っている
- 車載工具で増し締めした場合の帰庫後確認ルールがある
- 点呼で交換後車両への声かけをしている
- 異常時にドライバーが出庫を止めて報告できる基準がある
まとめ
大型車の車輪脱落事故は、令和6年度に120件発生し、令和5年度の142件から22件減少しました。ただし、12月から2月に67件、タイヤ脱着作業後1か月以内に54件、左後輪からの脱落が約92%という偏りがあります。
運送会社が見るべきなのは、単に「件数が減ったか」ではありません。冬季、交換後1か月、左後輪という重点条件を、点検表・増し締め管理・点呼の声かけに落とし込めているかです。
記事を読んだあとにまず見直すべきなのは、点検表です。「ホイール周り異常なし」だけで終わっていないか、交換後1か月の管理が残っているか、左後輪の重点確認が明記されているかを確認してください。
Q. 大型車の車輪脱落事故は減っていますか?
A. 令和6年度は120件で、令和5年度の142件から22件減少しています。ただし、過去10年で見ると依然として高い水準で、人身事故も3件発生しています。
Q. どの時期を重点管理すべきですか?
A. 12月から2月が重点時期です。令和6年度はこの期間に67件、全体の約56%が発生しています。冬タイヤ交換が始まる10月以降は、増し締め予定と日常点検を強める運用が必要です。
Q. タイヤ交換後は何日くらい注意すべきですか?
A. 少なくとも1か月以内は重点管理が必要です。令和6年度はタイヤ脱着作業後1か月以内に54件、全体の約45%が発生しています。
Q. 左後輪だけを点検すればよいですか?
A. いいえ。基本は全輪点検です。そのうえで、左後輪は脱落が多い箇所として、点検表や点呼で重点確認するべきです。
Q. ナットチェッカーを付ければ車輪脱落事故を防げますか?
A. ナットチェッカーは、装着だけで事故リスクをなくす部品ではありません。ホイールナットの緩みの兆候を目視で確認しやすくする点検補助具です。規定トルクでの締付、増し締め、日常点検とあわせて使う必要があります。
出典・参考資料
この記事では、以下の公開資料をもとに発生件数、発生時期、脱落箇所、点検項目を整理しています。
