大型車の車輪脱落事故を防ぐうえで、点検の基本は、左右や前後を問わず「全輪を確実に確認すること」です。国土交通省の令和6年度資料では、大型車の車輪脱落事故120件のうち、脱落箇所の約92%が左後輪でした。
ただし、この事故傾向を理由に点検対象を左後輪へ限定してはいけません。左後輪を含むすべての車輪について、同じ基準でホイールナットや周辺部品の状態を確認することが基本です。
この記事では、左後輪からの脱落が多いとされる背景を整理したうえで、点検対象を限定せず、全輪を確実に確認するための点検表、点呼、ナットチェッカーの位置づけをまとめます。
この記事のポイント
- 令和6年度の大型車の車輪脱落事故では、脱落箇所の約92%が左後輪だった
- 左後輪が多い背景には、右折・左折時の力、道路勾配、後輪異常の気づきにくさなどが関係すると考えられている
- 事故割合にかかわらず、点検は必ず全輪を同じ基準で行う
- 点検表では「ホイール周り異常なし」とまとめず、全輪についてナットの欠損・損傷・位置変化などを記録する
- ナットチェッカーは、ナット位置の変化を目視で確認しやすくする点検補助具として使う
令和6年度は脱落箇所の約92%が左後輪
国土交通省が公表している令和6年度の車輪脱落事故発生状況では、大型車の車輪脱落事故は120件でした。そのうち、脱落した車輪位置は左後輪が約92%を占めています。

この数字は事故傾向を理解するための資料です。点検表を左右で分けたり、左後輪だけを特別な点検項目にしたりする根拠ではありません。出庫前点検では、一輪ずつ確認したことが分かる運用が必要です。
特に注意したいのは、全輪確認が「ドライバーの注意力任せ」になっている会社です。点検表に具体的な項目がなければ、どの車輪を何まで確認したのか記録に残りません。点呼でも、交換後車両の増し締め予定や異常の有無を全輪について確認できる運用が必要です。
なぜ左後輪が多いのか
左後輪からの脱落が多い理由は、ひとつの原因だけに断定できません。実際の事故は、交換作業時の締付・清掃・給脂・部品状態、作業後の増し締め、日常点検など、複数の要素が重なって発生します。
そのうえで、国土交通省や地方運輸局の資料では、走行時に左後輪へ負荷がかかりやすい条件として、次のような要因が考えられています。
1. 右折時に左側へ荷重がかかりやすい
右折時は、比較的速度を保ったまま旋回する場面があります。このとき、遠心力によって車両や積み荷の荷重が左側へかかりやすくなります。積載量が多い車両では、左側のタイヤやホイール周辺にかかる負荷を軽く見ることはできません。
2. 左折時は左後輪に横方向(よじれる方向)の力がかかりやすい
左後輪は小さな半径で回ります。交差点、狭い構内、荷下ろし先の敷地内で左折を繰り返す車両では、左後輪が回転方向に対して横方向へよじられるような力を受けやすくなります。
3. 道路の勾配で左輪側に負荷が寄りやすい
道路は排水のため、中央部が高く、路肩側が低く作られている場合があります。日本では左側通行のため、車両の左側が路肩側に近くなり、左輪に負荷が寄りやすい条件が生まれます。長距離を走る車両ほど、この小さな負荷の積み重なりを無視しない方が安全です。
4. 後輪の異常はドライバーが気づきにくい
前輪に異常があれば、ハンドルの振動や操作感で気づける場合があります。一方、後輪のホイールナット緩みや異常は、運転席へ違和感として伝わりにくいことがあります。特にトレーラーや軸数の多い車両では、その違和感がドライバーへ伝わりにくくなります。「走っていて違和感がないから大丈夫」ではなく、出庫前に目で確認する仕組みが必要です。
現場で起きやすい見落とし
全輪を確認すると決めても、運用があいまいだと点検は続きません。現場で起きやすいのは、知識不足よりも「確認したことにする」運用です。
次のような場面では、全輪確認が流れやすくなります。
| 見落としやすい場面 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 出庫前点検で時間がない | 全体をざっと見て「異常なし」で終わる | 確認順序を決め、全輪のナット位置・欠損・損傷・さび汁を一輪ずつ確認する |
| タイヤ交換後の車両が多い | 増し締め予定と実施確認が追いつかない | 交換後1か月以内の車両を一覧化し、点呼で声かけする |
| 複数ドライバーが同じ車両に乗る | 前回との違いを判断しにくい | マーキングやナットチェッカーで「前回と同じ位置か」を見やすくする |
| 外注でタイヤ交換した | 自社側の記録が残らず、増し締め管理が抜ける | 外注作業でも自社の管理表に作業日・確認者・増し締め予定を残す |
| 点呼者と整備管理者の情報が分かれている | 交換後車両や増し締め予定が点呼で共有されない | 点呼用の確認欄に「全輪確認」「交換後」「増し締め予定」を入れる |
事故傾向にかかわらず、点検は必ず全輪
左後輪の事故割合が高くても、点検の範囲を左後輪へ限定するべきではありません。前輪・後輪、左右すべての車輪を同じ基準で確認し、どの車輪にも確認漏れを作らないことが基本です。
点検表に入れるときは、抽象的な言葉を避けます。「ホイール周り確認」だけでは、ナット位置を見たのか、さび汁を見たのか、交換後管理を見たのかが分かりません。確認項目を分けることで、ドライバーも管理者も同じ基準で判断しやすくなります。
- 全輪のホイールナットに欠損・損傷・緩みの兆候がないか
- 全輪のホイールナット位置に前回からの変化がないか
- 全輪のホイールボルト周辺にさび汁、亀裂、異音の兆候がないか
- タイヤ脱着作業後1か月以内の車両では、増し締め予定日と実施日が分けて記録されているか
- 異常がある場合に、ドライバーが出庫を止めて報告できる基準があるか
ここまで具体化しておくと、点検が「気をつける」から「確認する項目」へ変わります。運送会社の安全管理では、この差が大きくなります。
大型車の車輪脱落事故の最新発生状況と、冬季・タイヤ脱着後1か月以内・左後輪に多いという発生傾向を先に整理したい場合は、次の記事も参考にしてください。
大型車の車輪脱落事故は減っているのか。最新発生状況と運送会社が見るべき点検ポイント
点呼で使える声かけ
全輪確認は、点検表に入れるだけでは不十分です。点呼や朝礼で、短く、毎回同じ言葉で確認することで現場に残りやすくなります。
- 「タイヤ交換後1か月以内の車両も、左右すべての車輪を確認してください」
- 「どの車輪でもナット位置が前回と違う場合は、出庫せず報告してください」
- 「さび汁、異音、振動、違和感があれば、自己判断で走らず運行管理者へ報告してください」
- 「外注で交換した車両も、自社の増し締め予定と点検表で確認してください」
「脱輪に注意してください」だけでは、確認行動に変わりにくくなります。どの車両を、どの箇所まで、どう見ればよいかを具体的に伝えることが大切です。
点呼での声かけは、責めるためのものではありません。ドライバーが異常に気づいたときに、迷わず報告し、必要なら出庫を止められる状態を作るための確認です。
ナットチェッカーの位置づけ
ナットチェッカーは、ホイールナットの緩みの兆候を目視で確認しやすくする点検補助具です。
点検で使う場合は、各ホイールナットについて「ナットチェッカーが前回と同じ形状か」「ずれや変形がないか」を見やすくすることです。特に、複数のドライバーが同じ車両に乗る会社や、タイヤ脱着後の車両が増える時期には、点検の判断基準をそろえやすくなります。
全輪確認を現場に定着させるには、点検表・点呼・増し締め管理をセットで整える必要があります。ナットチェッカーを使う場合も、まずは「どの車両のどの車輪に付けるか」「誰が確認するか」「異常時に誰へ報告するか」を決めてから始めると運用しやすくなります。
全輪の点検を分かりやすくしたい方へ
ナットチェッカーは、ホイールナットの位置変化を目視で確認しやすくする点検補助具です。対象車両の選び方、点検表への入れ方、点呼での声かけ例まで確認したい場合は、お問い合わせページからご相談ください。
自社で確認したい10項目
この記事の内容を現場に落とすときは、次の10項目を確認してください。まずは点検表と点呼で、左右や前後を問わず全輪を確認する手順をそろえることから始めます。
- 運行前点検を全員が確実に行っている
- 全員が同じ点検方法で確認している
- タイヤ交換後1か月以内の車両を把握している
- 増し締め予定日と実施日を分けて記録している
- ナットの位置変化を確認する方法がある
- さび汁、異音、振動、違和感があった場合の報告先が決まっている
- 複数ドライバーで乗る車両の点検基準がそろっている
- 違和感があった場合、次のドライバーや管理者に報告できる体制が整っている
- 点呼で安全確認を声かけしている
- 異常時に出庫を止める判断基準がある
国土交通省の日常点検表
全輪点検の確認項目を社内でそろえる際は、国土交通省が公開している様式例も活用できます。
まとめ
大型車の車輪脱落事故では、左後輪からの脱落が多く発生しています。令和6年度資料でも、脱落箇所の約92%が左後輪でした。
左後輪が多い背景には、右折時の遠心力、左折時のよじれ、道路勾配、後輪異常の気づきにくさなど、複数の要因が関係していると考えられています。ただし、これらは単独原因を断定するものではありません。実際の事故は、締付、増し締め、清掃、給脂、部品状態、日常点検などが重なって起きます。
だからこそ、現場で必要なのは「左後輪を優先する」ことではなく、事故割合にかかわらず全輪を同じ基準で確実に点検することです。点検表、点呼、増し締め管理、異常時報告の中に、全輪確認を落とし込めているかを確認してください。
安全管理は、注意喚起だけでは定着しません。点検表に残ること、点呼で確認されること、異常時に出庫を止められること。この3つをそろえることで、全輪点検が現場で続く仕組みになります。
Q. なぜ大型車の車輪脱落事故では左後輪が多いのですか?
A. 右折時の遠心力、左折時のよじれ、道路勾配による左輪側への荷重、後輪異常の気づきにくさなどが要因として考えられています。ただし、事故原因をそれだけに断定することはできません。
Q. 左後輪だけ点検すればよいですか?
A. いいえ。左後輪の事故が多いという統計があっても、点検対象を限定してはいけません。必ず全輪を同じ基準で確認します。
Q. 全輪点検では何を見ればよいですか?
A. ホイールナットの欠損・損傷、ナット位置の変化、さび汁、異音、振動、違和感、タイヤ脱着後の増し締め記録を確認します。
Q. ナットチェッカーは全輪点検に使えますか?
A. ISO方式のホイールでは、ホイールナットマーカーのずれを目視する方法で、ホイールナットの緩みを点検できます。緩み確認は打音点検から目視点検へ置き換えられますが、日常点検そのものを省略できるわけではありません。必ず全輪を確認してください。
出典・参考資料
この記事では、以下の公開資料をもとに、左後輪の発生割合、推定要因、点検時の注意点を整理しています。
